この海の南の果てにあるという畏れ無き島目指し漕ぎ出す
ベックリンの「死の島」を見て、いにしえの人々が楽土を目指して旅出した「補陀落渡海」を連想した一首。
独裁者ヒトラーも文豪ヘルマンヘッセも、ベックリンの絵に傾倒していたらしい。
これは、若くして夫を亡くした未亡人からの依頼で描かれた絵です。亡き夫を想い、瞑想するための絵。絵に描かれているの小舟は、死者を納めた棺と死神を乗せて音もなく静かに小さな島へ向かっています。
人は人間としての尊厳も何もなく、不潔な墓に埋葬されたり、ただ大量に殺されるという恐怖に怯えていました。せめて人として、まとめて穴に投げ込まれるような死ではなく、1人ひとりの尊厳を守られながら静かに葬られるのを夢見ていたんでしょうね。ベックリンが耳を傾けていたのは、そんな死者の切ない願望だったのかもしれません。
尊厳を以て赴く死後の南国の楽園。寂しくも美しい…。
I saw a dream of a southern paradise
Over the mountains and in the sunshine
Red flower sunset wrapped around me
I felt so free
But there was no one
to hold my hand
I was alone