7オンスの庭

文化あふるる言の葉の庭

口噛み酒

 

味飯(うまいひ)を 水に醸(か)みなし 我が待ちし かひはかつてなし 直(ただ)にしあらねば

 

万葉集 現代語訳 巻十六3810 : 讃岐屋一蔵の古典翻訳ブログ

 

美味しいご飯を醸して酒にして、私がお待ちした甲斐は全くない。あなたが直接来られたのではないので。

 

万葉集より。はなればなれになってしまった男をそれでも一心に恋慕し続けてきた乙女。その男がいつのまにか他の女とくっついていた。しかも男は贈り物だけよこして当人は来ない。こんなのはあんまりじゃないですか、と恨めしくなじった一首。和歌が得意とする情感がよく伝わる一首だ。

 

酒を醸造することを、「醸す(かもす)」というが、「醸む(かむ)」ともいう。それは、酒はもと米を噛んで潰して発酵させて作ったからである。

 

いにしえの時代、お酒は噛み潰して作っていたらしい。

 

口噛みの酒は、米などの穀物を噛んで容器に吐きだし、唾液中のデンプン分解酵素であるアミラーゼの作用によってデンプンを麦芽糖に分解した後、自然の酵母でアルコール発酵させたもので、原始的な醸造法であった。

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君の名は。』で巫女であるヒロインが神事で実践していた口噛み酒。日本だけでなく、世界中で見られる風俗らしい。

 

台湾の山岳民族はアワや米を原料に「口噛み酒」を造っていました。また、アマゾンでは「タピオカ」の原料として知られる「マニオク(キャッサバ)」と呼ばれる芋に似た低木から「口噛み酒」を造っていました。さらにペルーの古代都市・インカ帝国では、巫女がトウモロコシを噛んで「チチャ」と呼ばれる「口噛み酒」を造り、神に捧げていたのだとか。まさに『君の名は。』で描かれた「口噛み酒」が、遠い南米にもあったと思うと、興味深いですね。

「口噛み酒」とは?映画『君の名は。』で話題となった日本最古の酒|たのしいお酒.jp

 

現代では法律上味わうことが不可能な口噛み酒。どんな味だったのか興味はある。あるいは、実際に味わえないからこそのロマンか。