7オンスの庭

文化あふるる言の葉の庭

東照 / 失楽園

 

 

 

 

嬉しやと 再び覚めて 一眠り 浮世の夢は 暁の空

徳川家康

 

 

 

 

「厭離穢土欣求浄土」を掲げ、天下統一事業を完遂した為政者、徳川家康。彼の生涯が今年の大河ドラマの主題として取り上げられた。彼が築いた体制は260余年続き、のちに「江戸時代」と振り返られる長い期間にわたり日本国を統治することになる。国史上稀に見る政治家。その彼が世を辞する際の一首。幻のごとき人生を国家安泰・平和のために賭け、文字通り見事に勝利した一代だった。

 

どうする家康 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド)

 

 

蛇足になるかもしれないが、家康の内的生活についての考察。彼は一般に念佛(殊には浄土宗)の人と認識されており、信仰の実態も恐らくはそうであったと思われる。しかし、どうも幼少期には日新上人(慈雲山 瑞輪寺 開山)という法華宗の僧侶から教育を受けたという。そうしたバックボーンが、後生(死後に往くあの世)に希望を全振りするのではなく、今生きているこの世界の改良に身を投じる生き方の指針になったのではないかと思う。

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夏果てて 秋来たるには あらずして 夏の只中 秋は忍びぬ

 

 

失楽園

 

 

失楽園」という映画を見た。劇中で引用されていた『徒然草』の一節をベースに一首。何事にも、良くも悪くも、前兆というものがある。夏の盛りの只中に、すでに秋を誘い込む翳りがある。そういう変化を察知して、決して怯えて萎縮するのではなく、物事の変化を淡々と軽やかに楽しめる大人になりたいといつも願っている。

 

この作品の魅力は官能的な演技だけでなく、群像や街や自然を織り交ぜた、上品で美しい映像美にあると思う。見終えたあと、長い旅から帰ってきたような余韻が残っている。

 

この作品は有島武郎の心中事件をモチーフにしているという。有島武郎の辞世の歌の一つは

修禅する人のごとくに世にそむき静かに恋の門にのぞまん

で、来年の大河ドラマで取り上げられる紫式部の主著『源氏物語』の世界観にも通じる。

 

 

NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 光る君へ: 紫式部とその時代 (NHKシリーズ)