清澄山 旭が森に 日は澍(そそ)ぐ 若き獅子吼に 菩薩微笑む
ひとりの聖者が清澄山にて織りなす物語ー。
12歳を過ぎたころ、ひとりの少年が清澄山のアーカーシャ・ガルバに「日本でいちばんの智者にならせてください」と願い堂に籠る。血を吐くほどの苦行を経たのち、無数の法門を見渡すブッダのまなこを得る。その後、諸国遊学の旅に出る。
32歳の時、771年前の今日、彼は清澄山に再び登り、自分ひとりだけでなく、老若男女問わずすべての衆生がブッダの澄み切ったまなこを譲り受け、この世が浄土であると悟るための法門として「南無妙法蓮華経」を初めて唱えた。
もはや青年となったかつての少年の新たな門出を、その背後で嬉しそうに見守り微笑むアーカーシャ・ガルバ菩薩の姿を私は幻視する。大きくなったな。立派に成長したな。そうだ。その通りだ。これからはわが身一つの精進ではなくて、虐げられている者や絶望している者に向かい、私があなたにそうしたように、あなたもまた、エンパワメントを授けていきなさい、と。
中天から苛烈な太陽が降り注いでいた。