照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき
『源氏物語』第8帖「花宴」で引用される有名な和歌。久々に『あさきゆめみし』を読み返していたら再開した一首。
20代前半までは満月が見えたら感激して、友達や職場の人たちと写メして送り合ったりしたものだった。あれからいくらか歳月を重ねた。友は遥か遠くなり、月は独りで静かに眺めるようになった。そして、月は眩しすぎず、雲間から少し覗いていたり、雲から透けておぼろげに見えたりするくらいが、ちょうどいい美しさだと思うようになった。
室町時代の天台僧・心敬も同じような感性で月を眺めていたようだ。
雲間の月を見る如くなる句がおもしろく候 ー 心敬
不完全なものの中に美しさを見出す感性。白と黒の間のグレーを愉しむ余裕。そういう繊細で不確かなものを拾うのはきっと歳の功なのだ。だから、歳を重ねることで増えていく色々な愉しみを丁寧に拾える日々を過ごしたい。