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君の明りを消して眠れ!古い泉の
いつも眼覚めている水音だけが鳴りつづける。
しかしこの屋根の下に客となった者は誰でも
この音には直ぐ馴れるのを常とする。
君が早や夢のさなかにいるときでも
おちつかぬ気配が家をめぐり流れて
堅い靴が踏むために泉のそばの砂利がきしむこともある。
噴泉の明るい音が急に途絶えて
そのため君が眼覚めても驚かなくていい。
星々は充ち溢れるように風光の上に光っていて、
そしてただ、旅びとが一人大理石の水盤に歩み寄り
泉からたなごころのくぼみに水を椈っただけの事なのだ。
その旅びとは直ぐに去る。泉は鳴る、いつものとおり。
喜びたまえ―君はここにいても孤独ではない。
たくさんの旅びとが星々の仄かな光の中を遥かに歩きつづけているし
そしてあまたの旅びとは、これから君の許へ来る道程にいる。
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星の味 ☆8 “闇から始まる”|徳井いつこ|創元社note部
このポエムは「古い泉」という作品で、『シッダールタ』『ガラス玉演戯』『車輪の下』で有名なヘッセと同じ時代のドイツに生きたカロッサが著したものです。幻想的で、いつまでも浸っていたいような世界観です。最後の数行は、まるで賢治が書いているかのような印象を受けます。
作者のカロッサは開業医として働きながら、同時に詩作を進めた生涯でした。私もまた、日中仕事をしながら、わずかな休憩時間や仕事終わりの夜の時間帯に歌を紡いでいます。時代も国も違いますが、なぜか親近感が湧くのは作風に賢治と通底する部分を感じるのも勿論ですが、創作スタイルが似ているということもあるのかもしれません。
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あおいめだまの 小いぬ
ひかりのへびの とぐろ
オリオンは高く うたい
つゆとしもとを おとす
アンドロメダのくもは
さかなのくちの かたち
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ
小熊のひたいの うえは
そらのめぐりの めあて