思い出す 頃にはいつも 届かない 煩わしきも 懐かしき頃
あれほど煩わしかったのに、夢に面影を見て思い出し、これほど涙が溢れるなんて。私という人間はなんと身勝手なんだろう。祥月命日もとうに過ぎたけれども、一首を献じて供養としよう。
ちりしはな をちしこのみも さきむすぶ などかは人の 返らざるらむ
『持妙尼御前御返事』より
散った花も落ちた木の実も、時が経てば再び、花が咲き開き実を結ぶ。なのにどうして人は季節が幾度巡っても帰ってこないのだろうか。
太陽を無くした今、あの家にもう誰も集うことはなくなった。幼い頃からこんな予感はしていたけれども、実際にこうなってしまった今となっては、家の外まで聞こえるほどのあの煩わしい酒盛りの音声(おんじょう)が懐かしい。