7オンスの庭

文化あふるる言の葉の庭

風雨以時

 

 

時によりすぐれば民の嘆きなり 八大龍王雨やめたまへ

源実朝金槐和歌集』より

 

 

「八大龍王雨やめ給へ」 | 瑞霊に倣いて

 

 

雨も晴れも、どちらも天地の維持に必要な天の氣ではあれども、度を過ぎれば民衆を悩乱させることになる。天も人も快く栄えていくには、何事も程度を弁えるが肝要。

 

ときにより

すぐればたみの

なげきなり

はちだいりゅうおう

あめやめたまえ

 

声に出してみると、不思議な印象が残る。

 

ここからは渡部泰明『古典和歌入門』(岩波ジュニア新書2014年)の所説に従う。注目しておきたいのは、敬語である。八大龍王に雨止め「たまへ」と敬語を使っている。和歌(短歌)に敬語を使うことは少ない。和歌は身分を超えるから、敬語はあまり用いられないのだが、ここでは神秘の力への訴えの強さのあらわれだろう。また、八大龍王という漢語の強さ、下句の調べのもつリズム、まさに呪文のようではないか。「ハチダイリューオーアメヤメタマエ」、「雨止めたまへ」を母音だけ示すと「アエアエアアエ」となる。ぜひ声に出してみてほしい。

時によりすぐれば民の嘆きなり八大龍王雨やめたまへ – 砂子屋書房 一首鑑賞

 

 

ちなみに、八大龍王のうちの一柱は法華経に登場する八歳龍女の父君である。

 

 

献げ詠む 祈りの歌を とこしえに 伝え活かさん 敷島の道

 

 

分校の 子ら放流の 鮭の稚魚 光となりて 海へと向かふ

 

札幌市の藤林正則氏の歌。 歌聖・柿本人麻呂をまつる兵庫県明石市柿本神社の春季献詠祭で最高位の天賞に輝いた一首。美しい歌景だったので此処で紹介した。

柿本神社で春季献詠祭 入選作など詠み上げ 明石|明石|神戸新聞NEXT