「ボストーク」(восток)とは、「東方」を意味する。ではなぜ「東」であるのか?筆者は学生時代、ロシア語を少々学んだことがあったが、その際、ロシア人が圧倒的に好む方角は東だと聞いたことがある(日本人の場合は南)。ロシア人にとって歴史的に、東という方角は特別な意味を持ち、その影響が今なお強いのだという。帝政時代、広大な東方へ領土を拡大することは壮大な夢であり目標だった。極東の、日本海に面した軍港に「ウラジオストク」があるが、この名には「東方を支配する」という意味がある。村や町、地区、時計メーカー…など様々な対象に付けられているボストークだが、その最たる例はロシアの南極基地「ボストーク基地」だ。子供の頃、図鑑で知ったその名に、「なんで宇宙船の名前と同じなのだろう」と思ったことがあったが、なるほど、東方=征服すべき対象と捉えると、そのネーミングは至極納得できる。
賢治が愛した法華経においても、東は重要な意味を持つ。
最初のチャプター「序品」で、世尊はまず東方世界を照らし出した。
最後のチャプター「勧発品」では、東方世界から来た普賢菩薩に請われて法華経を再演している。
東に始まり、東に終わる。それは一体どういうことかと思惟してみるに、日が昇る方角・東に向けて理想を胸に船出した若い旅人が、地球を一周して諸国を巡り、理想の至る所・東の果てが出発点である母国に他ならなかったと悟るようなものなのではないか。
隣の芝生はいつだって青い。太陽や月や星々はキラキラしていて魅力的だと思う。しかし、外に向けて探求すればするほど、ほんたうは自分の内にこそ燦然たるなにものかが輝いていることに気がついてゆく。そういう旅路を進みたいと願う。
東の果てはいつだって"ここ"なのだ。
夜明け前 最も深い 闇を裂き 先駆けて照らせ 吾が魂よ